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ブルックリン橋

The Great Bridge(ブルックリン橋建設物語)

 原著「The Great Bridge」は,歴史家で作家であり,ピューリッツアー賞を2 度等,数々の受賞歴があるディビット・マカルー氏の第2 作目の著作として1972 年に発刊された。
 本書は,ニューヨークのイースト川に架かるブルックリン橋の計画から完成までを描いている。ブルックリン橋は,中央支間長1600 フィート(490m)を有する近代吊橋の曙といわれる橋梁で,北米での吊橋や,日本での本州四国連絡橋の吊橋の原型にあたる。本書では,橋梁を計画した父親ジョン・ローブリング,その詳細設計と施工を担当した息子ワシントン・ローブリングを中心とした壮大な人間模様と技術史を著している。
 ブルックリン橋の建設についての著作には,ブルックリン橋改修やマキナック吊橋の設計を担当した構造エンジニアのD・B・スタインマン博士の『The Builders of the Bridge : The Story of John Roebling and His Son, Harcourt, Brace and Company; 1945』がある。本著は,スタインマン博士の著書も踏まえ,ディビット・マカルー氏自らが発見・整理したレンセラー工科大学の膨大で貴重なブルックリン橋に関する資料を豊富に取り入れて書かれている。
 この橋梁が建設された1800 年代中盤,日本では江戸時代末から明治維新を迎える開国の時期であり,舞台となった北アメリカ大陸では,インディアンとの戦いで進められた西部の開拓と合わせて,東部では運河や鉄道による交通網の開発で近代化が進められ,南北戦争が勃発した時期にあたる。学校を卒業してから42 年間に渡り橋梁計画や設計・施工に携わってきた私には,坂本竜馬や西郷隆盛が活躍していた時代,電灯や電話がまだ開発されていない時代に,国は異なるが,現代の技術の基礎となったこのような近代吊橋を計画・設計・架設した技術者の生き方や考え方について大変興味があり,本著の翻訳を思い立った。
 原著は,1800 年代のアメリカ史や南北戦争について,ある程度の知識がある読者を対象として記述されており,日本の読者には理解が難しい部分もある。そこで,日本の読者の理解の一助となるように,脚注・写真・イラストを補足することにした。幸いなことに,1800 年代後半の写真やイラストは比較的残っており,インターネット等で広く公開されており,これらを入手して参考にさせて頂いた。なお入手先については,脚注にURL を表記した。
 近年,建設業界が若者に敬遠され,次世代の担い手を確保する活動が,いろいろな面で行われている。19 世紀に建設された素晴らしい橋梁が現在でも立派に供用しており,それに携わった技術者がどのような生き方をしていたのかを伝えることで,次世代の担い手確保の一助になれば幸いと考えている。

第1部

第2部

第3部