• Information of Bridge Maintenance

セントルイス橋

ミシシッピ川の鉄道橋 ~セントルイス橋の歴史~

Rails across the Mississippi A History of the St. Louis Bridge
by Robert W. Jackson

上記写真は「https://en.wikipedia.org/wiki/Eads_Bridge」からの引用

 著者であるジャクソン氏は,アメリカの歴史家であり,特に都市計画,土木工学,および公共政策の歴史を専門とされています。テキサス大学オースティン校でアメリカ研究(American Studies)の博士号(Ph.D.)を取得され,その研究は,単に「橋の構造」という技術面にとどまらず,その建設が都市の成長,政治的駆け引き,そして地域経済にいかに影響を与えたかという,社会史・経済史的な側面を重視されています。

 1994年に出版された本書は,セントルイス橋(現在の呼称はイーズ橋)に関する最も権威ある包括的な研究書の一つとして高く評価されています。イーズ(設計者)個人の書簡から,当時の鉄道会社の内部文書,裁判記録,新聞記事まで,膨大な一次資料の徹底した調査結果を踏まえて書かれています。技術的な詳細(ケーソン病や鋼鉄の強度試験など)を正確に描写しつつ,それに関わる人間たちの野心,挫折,裏切りを「物語」として描き出す筆致が特徴です。この橋の設計者であるイーズを,単なる天才エンジニアとして神格化するのではなく,彼がいかに政治的に立ち回り,時には独善的に周囲と衝突したか,またカーネギーのような冷徹な実業家といかに渡り合ったかを鮮明に描き出しています。この本におけるジャクソン氏の大きな功績は,イーズ橋の物語を「セントルイス vs シカゴの覇権争い」という大きな歴史の流れの中に位置づけたことであり,「インフラは政治と密接不可分である」という視点があるからこそ,とても生々しく記述されています。

 イーズ橋は支間長150mを越える上路アーチ橋(道路・鉄道併用橋)であり,今から150年ほど前,1867~1874年(慶応3年~明治7年)に施工された橋梁です。主構造への合金鋼(クロム鋼)の初採用,ミシシッピ川の深い岩盤まで到達させたニューマチック・ケーソン(潜函)工法による強固な基礎,そして川の航行を妨げずにアーチを組み上げるカンチレバー(張出)架設など,現代の橋梁工学の基礎となる革新的な技術の数々が採用され,土木工学における前例のない偉業となっています。工事費は約1,100万ドル(現在費用でおよそ11億ドル,1,650億円程度),公共事業ではなく,民間事業として調達されています。国家歴史登録財に国定歴史建造物として登録されており,2024~2026年,1日あたり約7,100~8,100台の車両が通行しており,かつての鉄道デッキには,ミズーリ駅とイリノイ駅を結ぶセントルイス・メトロリンク・ライトレール・システム(年間利用者数:約766万人)が通っています。

 この本は,都市計画,鉄道計画,橋梁計画,橋梁施工に携わっている技術者の方々に,現在の技術と対比しながら,興味深く読んでいただけると思います。この本に登場する様々な人々の頑張りや苦労を,自分のこととして感じていただけたら幸いです。